恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
プロレスごっこで技をかけられたときは、大袈裟すぎるほどのリアクションで「ギブ、ギブ!」などと声を上げるのが、ある意味、相手に対する礼儀みたいなものなんだけど、そのときのあたしは一切ノーリアクションだったから、おにーちゃんもすっかり拍子抜けしているみたいな感じだった。



「あたし……産むかもしれないよ……紫苑さんの子供……」



首絞めの技をかけられたまま、路上の一点を見つめながら静かに言うあたし。

今の発言、あたし的には衝撃的なカミングアウトだった。


だけど、おにーちゃんは信じてないのか、軽い感じでこう返してくる。

「あのなぁ、まさかと思うが、お前、前に白鳥が“紫苑としゃべっただけで妊娠したオンナがいる”って言ったのを、真に受けてるわけじゃねぇよな?」

「当たり前でしょ、あだしだってもうどうやれば子供ができるかくらい知ってるよ……」

「ちょ、ちょっと待て」

そのとき、技をかけていたおにーちゃんの両腕からチカラがふうっと抜けた。

あたしはその間におにーちゃんの手をどけて、乱れたヘアースタイルと服装を正す。
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