恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
ホントにそう思う。
あのときは、おやっさんが倒れたっていうのに、お見舞いにも来ないおにーちゃんに腹を立てて、ぶっちゃけ衝動的にやっただけだったんだけど。
あんなことがきっかけで、死んでもこの町には帰ってこないと思っていたおにーちゃんが帰ってくるんだから、人生ってなにが起こるかホント分からないと思う。
“おにーちゃんが浅草に帰ってくる”
それはもちろんうれしいんだけど、手放しには喜べない部分もある。
だって、おにーちゃんがこの町に帰ってくるのは、やまぶきさんと結婚するためだから。
これじゃあ、せっかく帰ってきても、毎日いつでも好きな時間に好きなだけ会うなんてことはできるはずがない。
それどころか逆に、さっきみたいに、おにーちゃんとやまぶきさんのツーショットを、これから毎日イヤっていうほど、見なきゃいけなくなってしまう。
ましてや家がお隣さん同士だから、見たくもないのに、イヤでも目に入ると思う。
そんなふうに考えると、たとえおにーちゃんが帰ってきたとしても、目の前の霧が晴れるようにパァーッと明るい世界が広がるというわけじゃないんだ。