恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
「す、すいません……」
生まれてはじめて教壇に立った彼女にしてみれば、まともに生徒のほうを見るなんてこと、とてもじゃないけど、できることじゃなかったにちがいない。
「ハ、ハ、“have to +原形動詞”のカタチで……ナ、ナ、“ナニナニしなければならない”という意味になり……ア、ア、“I have to study English.”で……わ、わ、“私は英語を勉強しなければなりません”という意味になります……」
でも顔を真っ赤にして、そのおどおどした、そして恥ずかしそうで実に初々しい感じが、ますますクラスの男子どもを“萌え~っ”とさせたのは言うまでもない。
“あ~ァ、やってらんないわ……”
そう思ったあたしは校舎2階にある2年3組の教室からグラウンドのほうに目を向けた。
窓際にあるあたしの席からはグラウンドの全景がよく見えて、そこではちょうど赤いジャージ姿のおにーちゃんが、体操服姿の男子たちにサッカーのドリブルを教えているところだった。
“いいなァ……どーせ教育実習生に教えてもらうんなら、あたしもおにーちゃんに教えてほしかったよぅ……”
ココロの中でそうつぶやくと、音のないため息をついて頬杖をつくあたしがいた―――