恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~

「まぁ、いいじゃないか。一介のアルバイト店員が、こうして社長室まで乗り込んできたんだ。その勇気に免じて5分だけ話を聞いてやろうじゃないか」

「しゃ、社長……」

「キミ、いま“沢尻桃香”って言ったね? すると昨夜の事件の原因はキミか?」

「あ、ハイ」


紫苑さんから聞いたんだろう。話のいきさつは全て分かっているみたい。


「悪いのは全部あたしなんです。おにーちゃんを……赤井さんのこと、どうか許してもらえませんか? お願いしますっ」

社長に向かって、深々と頭を下げるあたし。

思えば、あたしの16年の人生の中で、これほどまでにヒトになにかを頼んだことはなかったと思う。


でも……、


「それはできんね」

即答だった。

「私でさえ、息子に手をあげたことがないのに、それを一度ならず何度も殴るなど断じて許せん。あってはならんことだ」

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