恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
そう言うと苦虫を噛み潰したような顔で、まだ吸いはじめたばかりのような長いタバコを、灰皿にグリグリとねじりつける社長。

「妻を亡くした私にとって“せがれ”はただひとりの家族。私にとっては、目に入れても痛くないほど大切なひとり息子だ。いわば宝物だ。愛する息子を傷つけられて、ソレを許すような親が、どこの世界にいると思う?」

「た、たしかにどんな理由があったにせよ、暴力は許すべきではないとあたしも思いますけど、でも……」

「話はそれだけかね? それだけなら約束の5分にはまだ早いが、これで話は終わりにさせてもらおう。帰りたまえ」

冷たく突き放すような言い方だった。


遠くでゴロゴロと雷の鳴る音が聞こえる。まもなく雨が降るんだろう。


イヤな空気が立ちこめる社長室。

だけど、ここで終わりにすることなんてできない。

「待ってくださいっ。どうしても許すことができないっていうんなら、おにーちゃんの代わりに、あたしに全ての責任を取らせてくださいっ」

決めたんだ。

どんなことをしてもおにーちゃんを許してもらう、って。一歩もあとには引けないよ。

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