恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
うれしくて、うれしすぎて何度も何度も頭を下げてしまうあたし。


「あのさ、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど、ボクは最後まで刑事告発をすることに反対してたんだよ。でもパパに強引に押し切られちゃって」

「あぁ、それは本当だ。ウチのせがれは親に泣きつくような軟弱者ではない。私のことは親バカなおやじだと思ってもらってかまわなんが、いま言ったことだけは、せがれの名誉のためにも信じてやってほしい」

「はい、分かりました」


社長のとった行動は、おにーちゃんを窮地に陥れ、あたしのココロを激しく乱した。

だけど彼にしてみれば、最愛の息子のことを思ってやっただけのこと。

社会的地位のある人間といはいえ、彼もまた、自分の家族を大切に思うタダの……そしてごく一般的な人間のひとりでしかなかったということだ。



「じゃあ、パパ、“善は急げ”で早速いまから桃香ちゃんも乗せて、ケーサツに刑事告発の取り下げに行ってくるよ」

「あぁ。外はこの雨だ。クルマの運転にはじゅうぶん気をつけるんだぞ」

そこにあるのは東京メリーヒルズの社長ではなく、ただのひとりの父親の顔だった。
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