恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~

そして……、


「じゃあ、あたし、そろそろ」

そう言って、クルマを降りようとするあたしに、紫苑さんは女物の傘を貸してくれた。

クルマに女物の傘を常備しているあたり、さすがは女のコの扱いに慣れているプレイボーイだけのことはある。

「なにからなにまでありがとうございます。迷惑ついでにすいませんが、おにーちゃんのぶんの傘も貸してもらっていいですか?」


「傘は一本のがいいっしょ♪ ねっ♪」


そう言ってウインクをする紫苑さん。

一瞬、言ってる意味が分からなかったけど、次の瞬間、あたしにも意味が分かった。

「あー、そーいうことかァ」

こーいう演出上手なところもまた、彼を“メリーヒルズの光源氏”たらしめるところなんだろうなと関心すらしてしまう。


こうして心憎いばかりの粋な演出の仕掛けを施した紫苑さんは、降りしきる夜の雨の中、あたしをクルマから降ろすと、ひとりで雨の中を走り去ってしまった。



< 239 / 263 >

この作品をシェア

pagetop