恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
そして……、
「じゃあ、あたし、そろそろ」
そう言って、クルマを降りようとするあたしに、紫苑さんは女物の傘を貸してくれた。
クルマに女物の傘を常備しているあたり、さすがは女のコの扱いに慣れているプレイボーイだけのことはある。
「なにからなにまでありがとうございます。迷惑ついでにすいませんが、おにーちゃんのぶんの傘も貸してもらっていいですか?」
「傘は一本のがいいっしょ♪ ねっ♪」
そう言ってウインクをする紫苑さん。
一瞬、言ってる意味が分からなかったけど、次の瞬間、あたしにも意味が分かった。
「あー、そーいうことかァ」
こーいう演出上手なところもまた、彼を“メリーヒルズの光源氏”たらしめるところなんだろうなと関心すらしてしまう。
こうして心憎いばかりの粋な演出の仕掛けを施した紫苑さんは、降りしきる夜の雨の中、あたしをクルマから降ろすと、ひとりで雨の中を走り去ってしまった。