恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
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紫苑さんのクルマのテールランプが、降りしきる夜の雨の中に消えてから、しばらく経った頃のこと――

無精ひげにボサボサの髪、少しやつれたような表情で、警察署の玄関に姿を現したおにーちゃんは、夜空を見上げ途方にくれたような顔をした。

まっ、傘がないのも無理はない。だって今朝はあんなに青空が広がっていたから。


せっかくケーサツから釈放されたのに、傘がなくて立ち尽くすおにーちゃん。

その姿を見て、昨夜も送別会で会ったばかりなのに、まるで何十年かぶりで再会したかのような感傷にひたりながら、ピチャピチャと靴を濡らす水溜りさえ気にも留めないで、一歩また一歩と、まっすぐおにーちゃんに向かって歩んでいくあたし。


5メートル……、

4メートル……、

3メートル……。


あたしとおにーちゃんの距離がだんだん、だんだん近づいてくる。


2メートル……、
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