恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
「いつもの玄米茶はあるかね」
「はい、毎度ごひいきに♪」
あたしンちは自営業で、浅草の仲見世で“お茶屋さん”を営っている。
お茶屋さんといってもモチロン“喫茶店”のことではなく、いわゆる“お茶っ葉”を扱う専門店。それなりの歴史もあって、世間じゃ、いちお老舗ってことになってる。
まぁ、江戸時代とか昔の日本なら、飲み物といえば水かお茶かお酒くらいしか種類がなかったんだろうから、お茶っ葉じたいがみんなの生活から切り離せないものだったのかもしれないけど、今や、たったの百なん十円かを払えばコンビニや自販機で、ペットボトル入りのお茶がカンタンに手に入る時代。
あたし自身、お茶屋さんの一人娘として生まれてきたのに、学校のお弁当のときとかはペットボトルのお茶をゴクゴク飲むクセして、ココ最近、自分の家のお茶なんか、ただの一滴だって飲んじゃいないし。
そんな時代にあっても、わざわざウチのお店にお茶を買いに来てくださるお客さんたちはホント神さまみたいな存在だった。
今日も今日とて、ウチのお店には頭がまっ白な神さまやら、腰が曲がって杖をついた神さまやらのお姿が見えていなさる。
“神さま、どーかひとつ、ウチの家族を見捨てないでくださいね”