恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
オトナの男のヒトなのに、紫苑さんの目にいっぱいの涙が浮かんでいた。
キレイな涙だった。
にごりのないキレイな涙だった。
だから、おにーちゃんのキモチにも、そして紫苑さんのキモチにもウソがないのが、あたしには分かった。
「それにしても……どうしてそんな大ケガしたのに、あたしはともかくとして、実の家族にも黙ってたの?」
「たとえ片方の目とはいえ、失明したことが分かれば、ウチのクソおやじはカラダを動かす仕事なんか辞めて、家業のせんべい屋を継げって言うに決まってるからな」
その答えを聞いて、あたしは“ハァ”と大きなため息をついた。
おにーちゃん、そこまでおせんべい屋さんを継ぐのがイヤなんだ……。
「あたし、別に紫苑さんの肩もつわけじゃないけど、これを機会に赤井氏もいーかげんにおせんべい屋さんを継ぐ覚悟決めたら?」
「オレの道はオレが決める! 親の敷いたレールの上をなんの苦労もなく走るのは性(しょう)にあわねぇ、ってんだ!」
不敵な笑みでそう言って、親指で鼻をピッと弾くおにーちゃん。これはおにーちゃんが得意になってるときの決めポーズだ。