1人のお嬢様の願い
驚いたように呟かれた自分の名前にそっとふせていた顔を上げた。
「ッ!あ、さひ…。」
今はもう制服や執事服ではなく、ラフな格好だ。
なんとなく、顔を見られたくなくてさりげなく顔を伏せながら言葉を発した。
「あ…、こっちは旭の部屋がある方だったわね。じゃあ、おやすみ。」
サッと旭に背を向け、自分の部屋の方に一歩だした時だった。
グイッと腕を引っ張られ、旭の方を向かされる。
「ちょっ、「どうしたんだよ。」
言葉を遮られ、腕を少し強く握られた。
あぁ。だからなんとなく悪い予感がしたんだ。
旭は見破ってしまう。
私の嘘を。
「…なんにも。」
「じゃあ、なんでこっち見ないんだよ。」
お願い、気づかないで…
そんなこと叶わないけど、心の中で叫んだ。
弱い私は見られたくないの。
弱い私は嫌いなんだよ。
旭の掌が私の顔を上げさせた。
旭の手は温かかった。
今、この温かさは泣きたくなる。
弱い私が甘えてしまう温かさ。
昔から甘えてきた温かさ。
優しい、優しい、
旭の温かさ。