世界は残酷な女神の笑みを理に
「…蓮…!勝弥から離れろ!」

「へへ、もう一人の獲物が来たか…。」


後方からの声に驚きながらも、声の主に驚きは笑みにと変わる。
振り向いた勝弥に、蓮は瞳を大きく見開いた。


忘れたかった欲望に歪んだ瞳。


殺意の籠った悪意の笑み。


それを持つ人間が、自分の直ぐ近くに居た事。


今まで過ごしていた日常が、足元から崩れていく。


「…勝弥…。お前、お前も…!」


「…、悪く思うなよ?まあ…、芹香が条件を呑むなら…、話は別だが。」


「答えは…、ノーだ!」


「…章…!」


「……!」


場を切り裂く様に声を張り上げて勝弥へと駆け寄ったのは、鉄パイプを振りかぶった章の姿だった。
力強く横に振り払われる鉄パイプは、無情にも空を切った。
勝弥は気付いていた。

章が鉄パイプに向かい気付かれない様に近付いていた事。

隙を狙って確実に向かってくる事を。


「…な…っ!」


「残念だったなぁー…。俺がもし喧嘩慣れしてなけりゃ、今頃は殺れてたのに、よぉ…!!」


「章ッ!」


「…待って勝弥ーっ!」


皮肉を囁き、サバイバルナイフを構えた勝弥の行動に、章は死への恐怖に瞳を大きく見開き、煌めく刃を見つめた。
しかし、その死へのカウントダウンを断ち切る様に芹香の言葉が響き渡り、勝弥の口元に自らの勝利を確信したのか、悦楽の笑みが浮かんだ。
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