世界は残酷な女神の笑みを理に
──…こんな奴…死ねば良いんだ。


不意に脳裏を閃光の様に駆け抜けた思いに体は反応したのか、強く頭を打ち失神していた杉村のポケットに右手を忍ばせ、中に入っていた銀の玉に触れた。握っていたからか、生温い白銀の玉を掌に収めては拳を握り締め、ゆっくりと引き抜いていく。


こんなんで…、人が死ぬのか?


こんな…。


そんな考えを頭に浮かばせながら、引き抜いた拳をポケットに入れて9つの銀の玉をジーンズの上から軽く盛り上がる場所を撫でた。


二秒程だろうか。何も起きない杉村を見ては、やっぱり嘘なんだよな。と自答し笑みを浮かべては杉村に背を向けた。


「か、帰ろう…。」


「!…ぅ…い…ぁ゙…う…ぎぃぃいああぁ…!!」


突如、後方で叫び出したのは他でもない杉村の姿だった。


…まさか…!


振り向いた俺の視界で自らの胸を押さえて、痛みに苦しみ杉村は叫びを上げている。


今…今戻せば助かるのか…?


俺は心の深層にへと問掛けるも、俺の体は目の前で苦しむ一つの命より、自分の身を選んだ。


「す…澄…か、が!…ぁ…───。」


徐々に薄れて行く声を背に向けては俺は逃げる様に走り出した。


──…初めて俺は…、人を殺してしまった。


今まで自身に語り掛ける正義は、全く役に立たなかった。
その歪んだ正義を胸に走り出した蓮の背中を見つめながら、一人の女性が綺麗に彩られた唇に笑みを浮かべた。
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