きみと。
プロローグ
 頬を照らす太陽の光で板淵麻由(いたぶち まゆ)は目が覚めた。
 そろそろ起きなよ、と言う姉の声が聞こえたが、それは華麗にスルーしてくしゃくしゃの髪の毛をいじりながら起きてくる。
 これが今年十六歳の姿であろうか、と時折母も心配したりするが恋する乙女だとかそう言う華やかなものでもない。

 
 リビングに下りていけば、テーブルの上には朝食が並んでいた。
 綺麗に化粧した母親が一人。慌ただしく弁当の用意をしているのは先ほど麻由を起こしにきた姉、優紀(ゆき)であった。
 とっくに高校を卒業してもう二十一になる一番上の姉は未だに眠っている。
 

 父親がいないことを気にしているわけではなかった。
 五歳の時からだろうか、もうずっとだ。
 だから今更気にすることでもないと思っている。
 パジャマのまま一階に下りてきた麻由は、時計を確認して慌てて二階へ駆け上がっていった。


 この状況で「早く起こしてよ!」の台詞はどうしても喉につっかえて出てこない。
 優紀の「いってきます」を聞いて麻由も家を飛び出した。

 
 家の前では友達が待っているはずだけど・・・と思ったのだ。
 今まで忘れていたと言えばそうなのかもしれない、が。


「ごめんごめん! 遅れたぁ!」
「おっそい! あんたふざけてんのぉ!?」
「マジで待ちくたびれた」


 眉間に皺を寄せながら、軽く私の頭を叩いたのは幼馴染みの奈緒(なお)だった。
 大きく背伸びをして、眠そうな顔をしているのは俊だ。これも幼馴染み。
 私達は昔からずっと一緒で、家も近所だったため良く遊んでいた。
 偶然、と言えば嘘になるだろうか。
 まあそんなわけでまた高校が一緒なのだ。


 小学生の頃は私の方が高かった身長もいつのまにか俊に抜かされていた。
 彼は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能とまるで某漫画の主人公のようなのだ。なんとも憎たらしい。
 奈緒は大きな目が特徴的で、ずっとそうだったが今でも小さい。
「可愛い」の分類に入るわけでもないが、「綺麗」でもない・・・・・・なんとも微妙なところである。


 そんなわけで、私達の登校はいつも騒がしかった。
 
 
  
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