学園(序)
吟ネエがゆっくりと顔をこちらに向ける。

はあはあと荒い息を立てながら、今にも襲い掛かってきそうだ。

「丞、お前って奴は」

「な、何?」

食べられるんじゃないかと思ったところで、こちらに抱きついてきた。

吟ネエの体重を支えきれず、尻餅をついてしまう。

「いい奴アル!」

顔のところどころにキスをしてくる。

言っておくが、他に誰もいないわけではない。

女子や男子の目が痛い。

特に男子の眼差し。

吟ネエは人気がある。

だから、俺に抱きついていることが気に入らないのだろう。

その中には、一度床を共にして、諦められない奴だっているかもしれない。

それはどうでもいいことだった。

猫はまだそこにいて、どこかに行こうとしない。

俺は手を振って、遠くへ行くように促す。

吟ネエに捕まって生贄なんかにならずに、他の人になついたほうがいい。

黒猫はこちらを見ているだけで遠のく気配はない。

吟ネエも猫っぽいから、気に入ったのか。

「吟ネエ、行こう」

埒が明かないので、俺は自分から遠ざかる事を選ぶ。

吟ネエの手を取って立ち上がらせ、その場を離れる。

猫は別の場所に歩いていってくれたようだ。

「お・さ・け!お・さ・け!私の素敵なお酒ちゃーん(はあと)」

放課後の笑顔の魔術師を釣り上げることに成功した俺は、町へ繰り出すこととなった。
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