学園(序)
「にゃはははー、お酒ちゃんアル」

吟ネエが『空』というラベルが貼られたの瓶に頬擦りしながら、家路についてる。

それほどまでにお酒が恋しくなるなんてな。

本当に高校生かなと思いたくなる。

将来、アル中にならなければいいんだけどな。

俺は財布の中を確認したが、札はない。

錬金術師ならば、金の精製くらい出来るはずなんだがな。

世界には特別な能力を持った奴なんかいるわけがなく、人間の出来ることは限られていた。

漫画じゃあるまいし、努力の積み重ねこそ意味があるのだ。

お金を手に入れるのだってバイトをする努力をしなくちゃならないし、頭が良くなるのだって勉強という努力をしなくちゃならない。

天才がいても、どこかしらで努力しているわけなんですよ。

隣の人は努力をしているとは思えないが、本人曰く、私は努力よりもお酒が大好きアルらしい。

意味はわかんねえが、お酒の力を借りれば何でも出来てしまうということだろうか。

「ただいまアル」

「ただいま」

二人で家の敷居を跨ぐと、奥の台所の部屋からパッツンの長い髪の人が出てくる。

「おかえりなさい」

エプロンで手を拭きながら、笑顔で出迎えてくれる。

葉桜渚、吟ネエの母親であり、俺の叔母である。

吟ネエと違って、落ち着いていて大和撫子を連想させる。

酒をこよなく愛してるわけでもないし、暴れたりもしないぞ。

「あら、そのお酒、どうしたのですか?」

当然、目に付くわな。

「ししし、小僧からの愛の贈り物アル」

脅迫紛いの出来事があったことは言わずもがな。

愛がないといえば嘘になるので、全否定はしない。

「あらあら、丞さんに迷惑をかけたら駄目ですよ」

酒のことに関しては、何の注意もないらしい。
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