学園(序)
「吟ネエの突飛さには慣れたよ」

「ふふ、丞さんも大変ですね」

もっと大変なのは、母親である渚さんだと思うんだけどな。

当の本人は自分の話をされているとは思っていないようで、ローファーをさっさと脱いで奥へと入っていった。

「吟さん、呑むならちゃんと手を洗ってからですよー」

どこかずれているのだが、いつもの事なので軽く流しておこう。

これ以上吟ネエを止めてしまうと、DVよろしく、家を破壊してしまいそうだ。

一体、誰に似たのか。

父親である耕一さんは静かな人であり、陰鬱なムードが漂っている。

体中には傷があって、どこで修行してきたのか問いたくなる。

渚さんの包容力がなけりゃ、他の誰とも結婚出来なかったのではないだろうか。

おっと、軽率な思考だったな。

他にもいいところはあるはずだ。

それはさておき、吟ネエは自分の部屋に戻ったんだろう。

俺も自分の部屋に戻ろう。

二階に上がり自分の部屋の木製扉の前に立つと、ここに住まう時のことを詳しく思い出した。

ここに来たのは1年前の丁度今と同じ、春の匂いが漂う頃だった。

母親が言い出した一言によって、吟ネエの家に来る事となったんだ。

『あんたもその年になって友達の一人も作れないの嫌でしょ?そうでしょ?うん、わかったわ。私達も二人でもっと新婚ばりにラブラブしたいから、渚のところに居座りなさい』

正直、親の中を裂く気持ちもなく、転勤生活に巻き込まれるのも嫌だった。

渚さんもあっさり「いいですよ」と頷いてくれた。

吟ネエと最初に会った時はまだ5歳くらいの頃だったが、とても行動力のある印象があった。

その時は、日が暮れるまで遊んでくれたんだ。

親の転勤のせいで離れることとなったが、何か約束をしたような記憶がある。

でも、思い出せずに高校生になって再びここに戻ってきたんだ。

その時に、最初の印象をぶっ壊すようなことがあった。

吟ネエと見知らぬ男が吟ネエの部屋から出てくるのを目撃してしまったんだ。
< 16 / 101 >

この作品をシェア

pagetop