学園(序)
「彼女、か。ワラワはそのようなことを考えておらんかった」

「そうですよね」

やっぱり、そうだろうな。

友人の弟のような存在であるからして、そっち方面には見られることはない。

「気を悪くしたらすまぬ。そなたのような殿方に、彼女という単語を一度も出されたことがないのじゃ」

「先輩って、一度も男と付き合ったことないんですか?」

「そうじゃ、まだ破瓜しておらぬ」

道端でなんて大胆な事を言うんだ。

周りを歩いてる人が、ちら見してるじゃないか。

男なんか、いやらしい目つきの奴だっているぜ。

今すぐ人差し指と中指を奴らの目にダイヴさせてえ。

「意外だな。先輩って可愛いから誰かと付き合ってるものかと思ったよ」

「うーむ、それ以前の問題じゃ。殿方は誰も近寄っては来ぬ」

ため息を吐く姿も、可憐で乙女チック。

やっぱり、高嶺の花っていうイメージが強いのか。

皆、喋りかけにくかったりするのかな。

俺も、一年の時は龍先輩に話しかけようとは思わなかったもんな。

間に吟ネエが入って次第に慣れていったから、今ではしっかりと話は出来ているけども。

「ワラワの何が悪いか教えてくれぬか?」

その大きな眼で見つめられると、心が澄んでいくようだ。

「え、えーと、悪いところですか?」

「うむ、遠慮などはいらぬ。ワラワもどっしりと構えておる」

とはいっても、悪いところなんかないんだよな。

とてもいい人で、出来た人だからな。

「ない、ですね」

「何じゃと?そなた、正気か?」

「え、ええ」

正気じゃなかったら、今すぐ龍先輩を連れてホテルに行くさ。

「ワラワかて人間ぞ?欠点があるはずじゃ」

「でもなあ」

ここは何かを答えないといけないようだ。

かなり困ったな。
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