学園(序)
うんうん、唸っている内に校門まで辿り着いてしまった。

「俺は、先輩のいいところしか言えませんよ」

「戯言を言うでない」

「本当です。まず、可愛いでしょ、それに頭もよくて運動も出来る、吟をあやすところ、母性の塊のような人ですし」

「も、もうよい。そなたの気持ちはわかった!」

赤みがかった頬で、俺の懐に掌底を打ち込む。

「ゴルベーザ!」

軽い身なりで、重い掌底を打ってくるところ、何か秘密があるんだろう。

でも、今はそんな秘密をあばくよりも、自分の体の危うさのほうが気になる。

「しゃ、洒落になってないっす。マジッす、いてえっす」

「すまぬ」

しゃがみこんだ、俺の隣に座り込んで様子を見てくれる。

髪の毛から漂ういい香りに翻弄されてしまう。

「駄目っすよ。綺麗な髪が汚れます」

「そのようなこと、今は関係ない」

わきの下の肩を入れられ、よろける体を支える。

「もう一つありました。先輩、優しいっす」

「そなた、いい根性をしておる」

そう言って笑ってくれるところを、笑顔も可愛いなと思ってしまう浅はかな俺。

余計なこと言って、心配させて、バカか俺は。

「あ、龍先輩、おはようございます」

「うむ、おはよう」

後輩が後ろから通り過ぎていくついでに挨拶をしていく。

多分、茶道部の一年だろうけど、身長は後輩のほうが大きいようだ。

龍先輩、本当にミニマムなんだよな。

中学生に間違われてもおかしくないんじゃないか?

最近じゃ危ないから、変な親父とか近寄ってきそうだ。

でも、威力の高い掌底を打てるんだったら、親父も一溜まりもないだろう。

しかし、じろじろ見られてるな。

俺はいいけど、龍先輩にまで恥をかかすわけにもいくまい。
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