学園(序)
「そなた、一口も食ろうておらんではないか。口では欲しいと言うても、食欲がないのかえ?」

「そんなことないですよ」

龍先輩とのやり取りが続いていたので、弁当の蓋を開けて箸が止まったままである。

よく見ると、色々な素材がある。

ミートボール、アスパラのベーコン巻き、玉子焼き、ほうれん草の油で炒めたもの、ふりかけをかけたご飯という、庶民派で埋め尽くされている。

「あまり時間がない、はよう食べるのじゃ」

「ええ」

玉子焼きを口に放り込むと、いい甘さを出しており美味しい。

塩を多めに入れたものよりも、甘い方が好きだ。

「どうじゃ?甘すぎやせんか?」

「先輩と味覚が同じなんですかね、美味いですよ」

「そうか」

二つとも、すぐに平らげてしまった。

ほうれん草もいい塩加減であり、他の物も美味い。

なんだか、先輩に悪いことをしているような気がする。

先輩だけ不味いものを食べて、俺だけがこんなにも美味いものを食べられるなんてな。

「先輩、まだ少しありますけど食べますか?」

嫌かもしれないけど、マグロパンだけでは満たされまい。

「良い。今日はそなたの物じゃ。男の子はちゃんと食べぬと成長せんぞ」

それは先輩にも言えることだけど、言わずに食べ続けた。

数分後には全て食べ終えて、蓋を閉めた。

「これ、洗って返します」

「そのような気を使う必要はあらぬ」

そういって、弁当箱は気を抜いた瞬間に強奪されてしまった。

「何から何まで、先輩にさせるっていうのは気が引けますよ」

「いいのじゃ。ワラワが好きでやることじゃ」

これ以上長引かしてもいいことはないので、先輩に任せることにした。
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