学園(序)
「終わったのなら帰るぞ」

「余韻を味わう時間ぐらいはあろう」

「俺はお前のわがままを聞いた」

「仕方ないなのう」

龍先輩が立ち上がる。

「吟、そなたがつけた傷じゃ、ちゃんと運ぶのじゃぞ」

「はっはっは、運び屋に不可能はないアル」

不安だな。

「あのさ」

去り際に二人を呼び止めた。

「あんた、乾光蔵っていうんだろ?乾楓って知ってるか?」

鋭い目つきは変わらず、何を考えているのか。

「俺は龍姫の護衛であって、お前との関係性はない」

質問に答える気はないようだ。

何もかもが北極並に冷たいな。

少し気になっただけなので、深く問い詰める気はなかった。

「じゃあ、先輩、また明日!」

「うむ、無茶なら明日はなしでも良い」

「その時は電話しますよ」

二人は去ってしまい、俺と吟ネエだけになった。

「いてえ」

あれ以上、先輩に心配をさせるわけにはいかなかったので我慢してたけど、糸が切れた。

「うむ、そなたの傷はとても深いぞえ」

「吟ネエ、似てないぞ」

「さあ、夜飯を食うために帰るアル」

真似の指摘を無視して、吟ネエが歩き出す。

「ちょ、ちょっと!吟ネエ、立てねえって!」

「その年でもエーデーアルか。やるせないアルな」

「アホか!頼むから、冗談を言える状態じゃないんだ」

様子を察してくれたのはいいけど、背負われるとは思わなかった。

結構、恥ずかしいぞ。
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