学園(序)
背負われながらの帰り道。

「吟ネエ」

「何アルか?」

「吟ネエってさ、好きな人とかいるの?」

ふと気になった疑問。

「身体の相性のいい奴は中々いないアルな」

「そうじゃなくてさ、こう、心から好きな人とか、そんなの」

「形のないものは信じないアル」

「え?」

自分の中の時間が少し止まってしまった。

「心に形があるアルか?」

ドライな台詞だな。

「形がなくても『在る』と思うんだ」

「何故アル?」

「誰かのために何かをしてあげようかと思うじゃないか?あれは心によって生まれた行動じゃないのか?相手を思いやる気持ち、『心』がなければ起きないよな。好きな人なら尚更起きることだと思うんだ」

「お前は純粋アルな」

吟ネエの体温は伝わるのに、何故か気持ちが何も伝わってこない。

「心に左右されるのは周りを見失う原因アル。お前の言う心のやり取りはお互いの自己満足でしかないアル。自己満足でしかないからこそ、相手の気持ちに達しない時に摩擦が起きる。それが馬鹿馬鹿しく感じるアルな」

「でもさ、一緒にいて気持ちの高揚を感じる相手なら相手の自己満足が何であれ、自分は満足できるんじゃないかな?」

「満足?そんなものはないアル」

冷たさが増して、傷の痛みが麻痺するほどであった。

「口では言わずとも心の底には尽きない貪欲な黒い気持ちがあるアル」

吟ネエがこんなにも話すことがあっただろうか。

「毎年毎年、誕生日と称してプレゼントを上げてる例があるアル。一年目はいいアル、二年目になればどうアルか?一年目よりもいいものを欲しいと思うアル。もし、一年目と同じような物か、ちゃちい物なら、満足ではなく不満が生まれるアルよ」

「でも、ありがたみはあるんじゃ」

「果たして、その状況になってありがたがるかなアル」
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