学園(序)
「もし、お前の言う『心』があったとしても、私には面倒ごとでしかないアル。当然、好きな人というのも面倒ということになるアルな」

「吟ネエは人を好きになったことないんじゃないかな?」

「んー?」

声のトーンは相変わらずだ。

「人間なんだから摩擦は起きるよ。面倒もあると思う。でも、それを覆すほどの喜びってところどころにあるんじゃないかな?ホラ、人生楽ありゃ苦もあるさっていうじゃない?喜びもあるし、辛さもある。それが人を好きになった宿命みたいなもんだよ」

吟ネエは黙ったまま歩き続けている。

「人を好きになったら解るはずだよ。絶対的とは言えないけどね」

「人って、無理に好きになるものアルか?」

「そうじゃないけど、面倒ごとだけじゃないって覚えといてよ」

「それこそ面倒アルなあ」

嘆息しながらも、背負うことは止めない。

本当ならすぐに下ろされているかもしれない。

「ごめんな。吟ネエ、あんまり真面目なことを喋るの好きじゃないよな。それに、人を好きになったことないとか言ってさ。あったかもしれないのに」

17年間、生きてきた中でないとは言えないんだ。

「今日の夜飯、何アルか?」

「あ、カレーじゃないかな?」

「私はポンカレーがいいアル」

もう、言うのはよそう。

吟ネエも長くて暗い話を避けてくれたんだ。

俺と吟ネエが家に帰ると、吟ネエの好きなポンカレーが置かれてあった。

吟ネエは笑顔になりながら食べている。

その笑顔を見られる俺は幸せなんだろう。

吟ネエが言う好きな人に対しての面倒な事などないって言ってるようだ。

人間には貪欲な気持ちはあるかもしれない。

吟ネエから何かを欲しいと思うこともあるかもしれない。

でも、それって自然に溢れる笑顔で賄えると思う。

そこには相手の押し付けの自己満足など含まれていない、自然に発生した世界。

他人はどうであれ、俺はそれで満足できるんだけどな。
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