学園(序)
「あれ?」

テレビの時刻は8時45分をさしており、遅刻するかどうかわからない時間だ。

部屋の時計が少し遅かったことを思い出した。

朝食を食べてる時間はない。

急いで歯磨き、顔洗い、髪をセットする。

最低限なので、キマっていない。

傍目でボーっとした吟ネエを見ながら、支度は完了した。

「吟ネエ、どうする?何なら、お土産でイカランチを買ってくるけど」

「生がいいアル!」

直訳すると、出来立てがいいということだろう。

「しょうがないな」

俺は吟ネエの手を取って立たせると、そのまま玄関に歩き出す。

手を握っていれば、ホイホイどこかへ行ってしまうこともないだろう。

「間に合うかどうかわからないから、走って行こう」

「もっと過激なスキンシップを要求するアル」

余計なことを言ってる暇があるなら、ちょっとは自分でも加速して欲しい。

ほとんどの体重を任せているから、腕がちょっとだるい。

「二人とも、仲がいいですね」

玄関の傍の襖が開くと、渚さんが出てくる。

「ちょっと出かけてきます」

「二人で出かけるなんて恋人同士で羨ましいです」

羨ましいって、渚さんも結婚してるんだから耕一さんと外出すればいいんじゃないかな。

でも、耕一さんの姿を家でみたことがあまりないので、行く機会がないのかもしれない。

「恋人といえばキッス、キッスを要求するアル」

唇を尖らせながら、顔を近づけてくる。

かなり寝ぼけてる。

普段の対応とは違うのはそのせいだろう。

吟ネエとの口付けは大歓迎である。

しかし、寝ぼけたままの吟ネエにしても、嬉しさがこみ上げてこない。

吟ネエに求めても無駄かもしれないが、恥じらいが欲しいのだ。
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