学園(序)
今は恋愛云々の問題に悩まされている場合じゃない。

時間がないんだ。

家から出てから、ずっと走り続けている。

携帯の時計を見て、前を見ての繰り返しで、息を切らしてるのは俺だけだ。

吟ネエのスタミナはスポーツ選手並にあるんじゃないか。

息を切らしたところを見た事がない。

半寝でもあてはまるくらいだ。

「はあ、はあ、後二分!」

歩けば遅刻、走ってもギリギリだ。

身体が痛むので本調子が出てない。

いや、本調子だとしても、怪しいところか。

肺に空気を取り込むことも苦しくなってきた。

「ひ、ひんねえ」

「いか、いか、いか、いか、いかいかいかイカランチー♪」

駄目だ。

間に合うとか間に合わないとかの最初からどうでも良いみたいだ。

目は覚ましてるのにも関わらず、いつまで経っても自分で走ろうとしない。

吟ネエの性格を時々というか、羨ましいと思うことが多い。

羨ましがっても、なれるわけでも、その位置に立てるわけでもない。

生まれ持っての性質や天命みたいなものなんだろう。

俺達は2分程度オーバーしたところで、学園の前に辿り着いた。

龍先輩に笹原先輩、乾光蔵の姿までがある。

「はあ、ひい、す、すいまへん」

中腰になって息を整えるが、全力疾走は身体に堪えているみたいだ。

「随分と苦労したのじゃな」

チェックのワンピースを着ている龍先輩は、同情の眼差しで見下ろしている。

「へ、は、は、でも、遅刻したんで、苦労とか、関係ないですよ」

今日は絶対に遅刻しないと思っていたのに、あっさり誓いは崩壊してしまった。
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