ラブ・スーパーノヴァ
薫は夜中のうちにタクシーで帰った。
ラテン語の日記を訳したらすぐに連絡すると言って去っていった。

今さっきまで一緒にいたのに、もう会いたいと思っている自分に少し驚いた。
倫は一日中薫のことばかり考えて過ごしていたが、夕方、倫にお土産をたくさん買って帰ってきたキヨを見て、胸が痛んだ。

「楽しかった?」
「まあまあだね。食事はおいしかったけど、風呂がいまいちだったねぇ」

そう言いながらも、表情は明るかった。
倫はお茶入れるねと言って台所に向かった。
キヨに対して後ろめたい気持ちが湧いてくる。

「誰か来たのかい?」

キヨの質問に倫はドキリとした。

「・・・来ないよ。なんで?」
「なんでって、来客用のコップが出てるじゃないか」

倫はしまったと思ったが咄嗟に取り繕った。

「あー・・・、これは奥のグラス取りたくて手にしたら汚れてたから洗っただけだよ」

自然に答えたつもりだったが、キヨは少し訝しげに倫を見た。

「そうかい・・・綺麗に洗ってるはずだけどねえ・・・」

そう言って荷物を片付け始めた。
倫はこの先もキヨに嘘をつき続けていかなくてはいけないのかと思うと、鉛の塊が胸につかえているような気分になった。

薫と一緒にいたいなどと言えるはずはなかった。しかし、それはキヨに嘘をついて生きていくことになる。

今まで必死に育ててくれたキヨになんてひどいことをしているのだろうと、倫は自分を責めた。
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