ラブ・スーパーノヴァ
「キヨちゃんは、アメリカ人のお祖父ちゃんをどうして好きになったの?」

倫はキヨが作っておいてくれた夕飯を食べながら聞いた。バイトが終わると、家に着くのは11時近くになる。キヨは倫と向かい合わせに座り、お茶を飲んでいた。

「なんだよ、突然。」キヨが少し照れて答える。

「戦後すぐにアメリカ人と恋に落ちるなんてさ、すごい勇気だよね。」

キヨは笑った。

「すごい勇気なんてもんじゃないよ。まわりの差別といったら今じゃ考えられないくらいひどかったよ。

でもお前の母さんがお腹の中にいたからねえ。絶対負けない、必ずこの子は産んで育てる!って気持ちで乗り越えてきたんだ。」

きっと倫が想像する以上にひどかったのだろう。
終戦を迎え、日本はぼろぼろだった。
アメリカの支配下で、生きるためにアメリカ兵に近寄る日本の女性は多かったと聞く。

「私には結婚を約束した男がいたんだ。いい男だったよ。でも、あの戦争で、ジャングルで食べるものもまともに食べられず、爆撃で手足を吹っ飛ばされて動けなくなって、仲間に捨てられて死んだんだ。」

キヨは悲しい思い出だからこそ忘れたくないといった風に話した。

「アメリカが憎かったよ。でもね、家族を食べさせていかなきゃならんかった。戦争中もひどかったけど、戦後もひどかったんだ。飢え死にする人間なんて吐いて捨てるほどいたからね。若い女は体を売るしかなかったんだよ。」

キヨからこの話は何度となく聞いているが、いつも倫は胸がくるしくなる。

「ある日ね、すごく無愛想なアメリカの兵隊さんがね、もう他の男を相手にするなって言うんだよ。

でも、それじゃ食べていけないって言うとね、私が食べさせてやる、って言ってねぇ。
ずっと一緒にいるとね、無愛想なんじゃなくて不器用だってことがわかってきてさぁ。アメリカにもこんな人がいるんだって、妙に可愛く思えてねえ・・・。」

キヨが少女のような瞳で話すのを見て、倫は微笑んだ。

「結婚したかったんだけどねぇ、相手にはお故郷に奥さんも子供さんもいた。ある日、何も言わずに帰っちまった時は、そりゃ泣いたよ。お腹にあの子がいなかったら死んでただろうね。」

キヨは倫の母親の幸子を1人で育ててきた。貧しい時代に、さぞ大変だっただろうと倫はいつも思う。
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