ラブ・スーパーノヴァ
倫はため息をつき、この家の人に本を託して帰ろうと家の方に向かった。

しかし、家の中も人でごった返し、誰が九条の家の者かもわからなかった。

倫は記憶を頼りに以前通してもらった書庫へ向かった。部屋が開いてたらそこに置いていけばいいし、開いてなかったら部屋の前に置いて帰ろう。

見覚えのある渡り廊下まで来ると、さすがにまわりには誰もおらず静かだった。

書庫のドアは開いていなかった。倫はしばらくドアノブに手をかけたまま、あの楽しかった時間を思い出していた。
あんなに夢中になって、時間が経つのも忘れることなんて、なかったな・・・。

「ドロボー」

突然声が響いてぎくりとした。振り向くと、薫が渡り廊下の手すりに腰掛けていた。

倫は言葉が出てこなかった。月明かりに照らされた薫の姿が恐ろしいほど美しく見えた。

「こんなところまで、勝手に来ちゃだめじゃないか」

薫が優しく笑った。

「ごめん・・・ナサイ」

倫は素直に謝った。またしても薫をまともに見ていられずうつむいてしまう。

「嘘だよ。謝らないで。・・・本、返しにきてくれたんだね。」

倫はうん・・・と頷いて、持っていた本を薫に渡した。

薫は本を受け取ろうと伸ばした手で、倫の手首を掴んだ。

本が音を立てて落ちる。

薫の冷たい、細く長い指が手首に絡み、倫はどきりとした。

「・・・どうしたの?なんだか、今日は様子が変だよ。」

薫が倫を引き寄せようとしたが、倫は動かなかった。
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