恋はピンポンダッシュ!
「…まあ、でもどのみち、あんな文章書いちまってたから、恥ずかしくて、素直に渡せてなかったんだろうなあ。…やっぱ、情けないな、俺。」
「そんな事ないよ!…みんな、恋愛に対しては情けなくなるんだよ、きっと。」
いつしか、二人は見つめ合い、笑い合っていた。そして、ふいに海斗が、夏季の方を指差し、
「ピィ~ン…ポポ~ン」
と、初めて夏季に見せたであろう、優しい表情でつぶやいてみせた。夏季もその海斗の仕草に乗って、
「誰ですか?」
と言って、ドアを開ける真似をしてみせた。その瞬間、夏季は、二人の時が止まったかの様に感じた。



…夏季は、一秒でも長く、この瞬間よ続けと恋愛の神様に祈った。海斗もまた、夏季を抱き締めながらそう願っていた。
「好きだ、篠崎。」
「…うん。」



…最近、ようやくあの壊れかけたインターホンが新しいものと変えられた。もう、あの悲しく、切ない音色は響かない。夏季の、急いでドアを開ける癖もなくなった。いや、もう、そうする必要がないのだ。なぜなら、そのドアを開けた先には…
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