フランシーヌ
ジョーは、ローマの歴史的な景観を移動する映像を黙って見つめた。

いたるところから煙を噴き上げ、歴史遺産が破壊されつつある無惨な街並みだった。

だが、そんな様子を人並みに哀しむ余裕はジョーにはない。

迫り来る数日後の破滅の瞬間、建物や道路に刻まれることになるかもしれない不自然な影を捜した。

小一時間ほどモニターとにらめっこをしていたジョーは、とあるレストランの壁を見て目を細めた。

「画面右下の、レストランの白壁をズームしてください。ドアに向かって左です」

そこには、出窓があった。

「窓の下のほうを、もう少し…」

軍務総長がジョーの傍らでくいいるように画面を見つめていた。

常人の目に映るのは、ヨレヨレになった母親の服を引きずった戦災孤児が所在なげに座り込んでいる映像である。
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