フランシーヌ
2 クローンの聖母
「ジョーにぃちゃ…」

茶色の猫っ毛を小さなリボンでくくった幼女が、ジョーの膝のあたりで微笑んだ。

「やあ、シオン」

ジョーは、にこにこ笑って目線を落とし、幼女に手を振った。

オープンカフェで遅いブランチをとっている彼のところに、いつも、散歩の途中の親子が立ち寄る。おそらく、欠損なしの優良遺伝子を持った女性と、そのクローンの娘…。

二十一世紀初頭、世界中で禁止法が制定されたヒト・クローンだったが、闇での研究はとどまるところを知らなかった。

だが、その流死産や出生後の突然死は国際的な対応を余儀なくされるほど深刻な問題となり、事態を憂慮したWHOが、研究機関を発足させて問題解決にあたることになった。

彼女たちは、その過程で発生した成功例のひとつだろう。

妊娠時において過大子にもならず、遺伝的な障害も起きず、クローンの特徴である早老傾向も見られない優良サンプルとして、経過観察中といったところか。
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