フランシーヌ
「フランシーヌ…」

ジョーは、ストンと床に座り込んだ。

テレビから流れるフランシーヌの演説を、壁にもたれたまま、じっと聞いていた。

ほんの数時間前、腕の中で震えていた少女だった。

まだ、たった十二歳の少女だった。

その、少女が、全世界に向かって生と死の天秤を司るメッセージを発信している。

胸の底が熱くなって、息が詰まった。

帰りしなに、彼女は言った。


――もう、行かなきゃ…。


てっきり父親の待つ家に戻るのだとばかり思っていた。

だから、深く考えはしなかった。

普通、その場合は「帰らなきゃ」になるはずだったのだ。

彼女は、あのとき既に、この行動を決めていたのだろう。

いてもたってもいられないほどの、焦燥と不安が、ジョーの体中から冷たい汗を吹き出させた。
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