リラ冷えの頃に
前を向いたまま視線をずらす事なく、一所を見つめるリラの頭をアドニスが優しく撫でる。

もう少しリラが小さい頃であればそれも当たり前の事だったのだが、リラが少女となった今ではそんな事は殆どなかった。

普段ではあまり自分に触れることないアドニスに、リラはふとその視線を動かした。

今日のアドニスは少し可笑しい。

リラは自分の頭を撫でながら、寂しそうな顔をするアドニスに不安を覚えた。

「どうかしたの?」

ザアーッと湖面を撫でる突風に、リラの発した言葉は連れ去られてしまい、アドニスにその声が届く事はなかった。




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