リラ冷えの頃に
涙を流すこともなく、取り乱すこともなく。

ただ、「仕方の無い事なんだ」と自分に言い聞かせていた。

「…私、知ってたよ」

表情を崩さないリラとは対象的に、アドニスの目は大きく見開かれる。

「そうか…」

リラぐらいの年齢の少女が誰かに娶られるなんて事は、そう珍しいことではない。

その事を分かってはいても、妹の様に可愛いがっているリラを手放すのは、アドニスにとっても辛いことだった。

「そろそろ帰ろうか?」

腰を浮かせ中腰になったリラと目が合う。

いつまでも子供だと思っていた少女が、いつも間にか大人になっていた。

リラの笑顔を見て、アドニスの胸はぎゅっと締め付けられた。



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