リラ冷えの頃に
「下界がどんな所か気になるか？」

リラは返事をする事も、首を振ることもなく、ただ真っ直ぐに湖面を見つめていた。

リラの隣に腰を下ろしたアドニスは、少し考えた後に口を開く。

「下界なんて酷い所だよ。人々は嫉み怨み、簡単に人を殺める。
ここみたいに綺麗な景色も空気もない。汚れた世界だよ」

まるで見てきたかの様に答えるアドニス。

リラはそんなアドニスの言葉に胸がツンと痛んだ。

キラキラと輝く湖面。

湖底までも見る事が出来る綺麗な湖が、そんな汚れた世界に繋がっているとは、俄かに信じ難い。

この湖は下界へと通じている。

湖に身を沈めた者を有無を言わせず、下界へと誘うのだ。

一度下界へ落ちてしまうと、二度と戻って来られないと聞く。

その下界の様子を、どうして大人は知っているのだろう。

リラは疑問に思った。




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