月の雫 -君と歩む彼方への道-
月の光の中で。

オレたちは、そっと抱き合った。

シルの手は冷たかったけど、傷だらけの肌はとても温かくて。

心まで温まるような気がした。



シルヴィは、かぼそい腕でオレにぎゅっとしがみついていたっけ。

まるで、赤子のように。



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シルヴァイラの苦しみを目の当たりにして。

オレは深いショックを覚えると同時に、何だかひどく興奮していた。


人の過去や苦しみを共有する体験というのは、オレにとってはものすごい出来事だったから。

まるで、人生を並行してひとつ余分に生きているような気がして。

空間に占める自分のエリアが広がったような、そんな気さえした。


多分、人間の幅が広がるって、こういうことなんだろう。




いまや、オレとシルヴァイラの間に壁はなかった。



オレ同然の存在。


オレ自身と同じぐらい、大事な存在。

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