月の雫 -君と歩む彼方への道-
「それは何も言わなかった」


ため息とともに、じいさんはそう言った。



「こんな強大な魔力の持ち主のあまりの境遇にショックを受けてな。

わしはあの子を説得してこちらに連れて来たのだ。

あの子は行くあてもなかったようだったしな。

最初は乗り気じゃなかったが、何かにふと興味を持ったらしくてな。

特に嫌がりもせずついてきた」

「……」

「ここに何か期待するところがあるのかないのかさえわからない。

ただ、外をあてどもなくさまよっているよりはマシだとは思ってくれているようだ」

「……」



オレは言葉もなかった。
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