天使のような微笑で
 車は埠頭に着いた。

 ここならしばらく誰も来ないだろう。

 埠頭に着く前に彼女は名前を教えてくれた。
 やっと本名を知り、俺は今日の目的を一つクリアする事ができた。
 
 車から降りる事もなく、遠くの夜景を眺めながら沈黙は続いた。
 
 正直に言おうと決めたのに。
 話の出だしが思い付かない。

 詞は思いつくのに。何で?

 あ、そうだ。

「去年の冬に出した歌。聞いてくれた?」

「・・・天使のような微笑で・・・ですか?」

「うん」

 聞いてくれたんだ。
 良かった・・・。

「俺の気持ち・・・君に対する俺の気持ちを書いたんだよ」

「え・・・」

 歌詞を思い出しているのだろうか?
 口を小さく動かし何か言いながら考えている様子。
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