唄を聞かせて
三章
「あいつ、引っ越したらしいよ」


そう教えてくれたのは、たっくんと小中高と一緒だという高橋君だった。


「あいつんち、親父さんの会社が倒産したらしくてさ、突然出て行っちまったみたい」


「俺も噂で聞いただけなんだけど」と、そう話す彼の表情は、

何故直接教えてくれなかったのか、という非難の色と、自分の無力さを悟ってしまった色とが混ざった、

とても悩ましげなものだった。



「仕方無い」「どうしようもない」そんな言葉で割り切れたら、私たちはどんなに楽だったか。




突然失うには、彼の存在は大きすぎた。




.

< 12 / 17 >

この作品をシェア

pagetop