秘密のカンケイ

キッチンで手慣れたように野菜を切っていく軽快な音が聞こえる。

それを紡ぎだすのはわたしの手からで、1年近く繰り返してやってると慣れるものなんだと実感した。



今日は青椒肉絲(チンジャオロース)と玉子スープ。

炒めて絡めて、ジュウジュウとフライパンから美味しそうな音が聞こえてくる。

隣のコンロからは浮き上がった玉子が沸騰した泡によっていそいそと動いていた。

湯気からはコンソメのイイ匂いがする。



もうすぐ出来上がるって時にガチャガチャっとドアが開けられる音がして優斗が帰ってきたんだと知らせてくれた。


クリニックで着替えるから行きと帰りは私服。帰ってから部屋着にいつもは着替えるんだけど、今日は買い物に時間をとってしまいカバンを置くだけ置いてエプロンをその上に身につけた。


ダイニングキッチンと廊下を繋ぐドアが開けられると、

キッチンに立つわたしに優斗が優しい笑顔で「ただいま」という。


わたしも「おかえり」と返すと、わたしの格好をみた優斗が「着替えておいでよ」と近づいてきた。


こんな会話なんて結婚してからするものだと思ってから最初は歯がゆかったし照れたけど今では普通になってしまった。



「もうすぐできるからその後に」そう言うと、優斗は笑って「わかったよ、じゃ俺が先に着替えてくる」そう寝室に消えた。


もう、“茜は俺のことが大好きなんだ”と言った彼はいない。

茜から別れを告げられ、真実を告げられ、泣いていた彼はもういない。

だけど新しい彼女ができるわけでもなく、だから、早く新しい恋に向かって欲しいって願ってる。


< 144 / 262 >

この作品をシェア

pagetop