桜舞う月の夜に
隆雅は塗籠(ぬりごめ)に入っていき、少しして義隆の元へ戻ってきた。
隆雅の手には笛が握られていた。
「兄上…『皓月(こうげつ)』ですか?」
『皓月』とは隆雅が付けた笛の名だ。
「ああ。最近吹いてないから、たまには吹いてみようと思って…。…じゃあ、行ってくる」
「ちょっ…兄上っ!」
義隆の声を無視して、さっさと隆雅は階を下りて外に出て行ってしまった。
何処からか桜の花びらが風に乗って飛んできた。
月は相変わらず夜の空にぼんやりと浮かんでいる。
義隆は去っていく兄の背中を不安な気持ちで見送った…。