桜舞う月の夜に
それにしても猫がこの屋敷にいたとは…。
やはり猫屋敷だったのか?
そんなことを思いながら、隆雅はその辺りを見回したが、猫はこの小さな黒猫だけだった。
「…お前一人か?」
「ミャー」
隆雅の問いに答えるようにして鳴く。
痩せ細っていて、可哀想に思ったが、本人は別に何ともなく元気らしい。
「ミャー」
黒猫はすくっと立ち上がり、隆雅にすり寄ってきた。
「何だよ?変わった猫だな」
隆雅は小さく笑い、黒猫の頭を撫でた。
「さて…と、」
隆雅も立ち上がり、皓月を握った。
「?」
黒猫はきょとんとした顔で、目の前で笛を構える隆雅を見つめていた。
「久しぶりだから、上手く吹けるか分からないが…」
隆雅は瞳を閉じて、皓月の歌口に唇を当てた。