桜舞う月の夜に
笛の音が辺りに響き渡る。
最初はたどたどしい音だったが、慣れてきたのか、しっかりとした音が出てきている。
その皓月の音は素晴らしいものだった。
黒猫はその音を気持ちよさそうに聴いていた。
皓月の音もだが、隆雅の皓月を奏でる姿は美しかった。
きっとこの姿を見れば、女たちは惹かれてしまうだろう。
だが隆雅は人前で見せるのは嫌いだった。
一人で吹いているのがいい…。
今夜は小さな見物客がいるが…。
…ふと隆雅は小さな見物客の他の視線を感じた。
「?」
歌口から唇を離し、その視線が感じられる方を見た。
その方向は桜の木の下。
隆雅の目がそこに行くのと同時に何かが木の陰に隠れた。