桜舞う月の夜に
手入れをしっかりしている長い髪は綺麗で、身につけている衣服も高価なもの。
きっと何処かの家の姫君なんだろう。
女はゆっくり頭を上げた。
その女の顔を見て、隆雅は目を丸くした。
彼女の瞳は桜のような不思議な色をしていたからだ。
もしかして物の怪かと思ったが、そんな気配はなかった。
瞳の色はさておき、気になるのは…
「何故こんな夜中にそなたはいるんだ?」
普通女は外には殆ど出ないはずだ。
特に姫君なら、尚更。
こんな夜更けに、しかも簡単に男には顔を見せてはいけないのに…。
―――この時代は、なかなか男は女の顔を見ることができない。
あの家の姫君は美しい、とても繊細だ、などの噂で男はその顔も見たこともない女に興味が持つ。
気になり、女の屋敷を垣間見する男もいるが、もしその女に会いたいのなら、歌を作って見てもらうしかない。
その男の歌を女が気に入れば、女は返事の歌を作り、歌の渡し合いができる。