桜舞う月の夜に
お互いの気持ちが通じれば、深い関係を持つことができるようになるだろう。
…それなのに年頃の姫がこんな物騒な夜中に外に出るとは…。
「わたくしは…」
目の前の女はそう言いながら、俯いた。
隆雅はその女を見ながら、内心戸惑っていた。
隆雅ははっきり言って、女には興味がない。
以前たまたま、隆雅が吹いた笛の音を聴いた者たちが『藤原家の嫡子の笛の音は素晴らしいものだった』という噂を流し、それを聴いた各家の女たちは是非ともその音を聴きたい、一度お会いしたいなど、言っているそうだ。
逆に女たちから興味を持たれた隆雅。
たまにそれを利用して、隆雅の親…特に父親は勝手に縁談を組んだりしていた。
もちろん隆雅はすべて断ったが…。
それに隆雅本人、鬱陶しく思っていた。
煩い親や女を…。
だが、この目の前の女はどうだろう?
今までの女と違って、大人しい。
そして何処か心細そうで、今にも消えてしまいそうな…そんな存在だった。