桜舞う月の夜に
「…もしかしてこの屋敷は…そなたのか?」
黙り込んでいる女に、そう言うと、女は少し顔を上げた。
「わたくしの、と言えば、そうですが…少し違います…」
「?」
「…色々とありまして…」
「…そうか」
それ以上は訊ねないことにした。
きっとこの屋敷が物の怪に襲われた時に何とか逃げ切った姫君なんだろうと、勝手に納得した。
「なら、悪いことをしたな。人様の屋敷に勝手に入ったりして…」
隆雅はそう言って、門へと向かった。
すると、
「あ、あのっ…!」
さっきよりも、大きい声で女は隆雅を引き止めた。
振り返ると、女は隆雅を見つめていた。
「笛の音…素晴らしかったです…!…もう一度、聴かせていただけないでしょうか?」
「え?」