桜舞う月の夜に
きょとんとした表情の隆雅は、ただその女を見ていた。
そして申し訳無さそうに、
「…悪いけど…自分は人前で笛を吹くのはあまり好きではないんだ」
と、言った。
それを聞いた女は残念そうに肩を落とした。
「…そう…ですか…」
その声はとても悲しそうに聞こえて、断った隆雅自身とても悪いことをしてしまったような気分になった。
どうしようかと考えていた隆雅の元に、あの黒猫が足元にやって来た。
「ミャアッ!」
もう一度吹けと言っているようだった。
無視したら、この猫に引っ掻かれそうだな…と隆雅はぼんやりと思った。
「…わかった。もう一度だけなら…」
「えっ…いいのですか?」
驚いたように隆雅を再び見つめてくる。
隆雅はその女の桜色の双眼に見つめられると、何だか吸い込まれそうな気分になり、さり気なく目を逸らした。
一方、女はそんな隆雅の様子には気づかず、先程とは違った嬉しそうな表情になっていた。