桜舞う月の夜に
「吹かなかったらこの猫に引っ掻かれそうだからな…」
足元の黒猫を見下ろしながらそう言うと、女はクスリと笑った。
「おいで、小夜」
黒猫は足元から離れて女の元へ行った。
どうやら、『小夜』とは黒猫の名前らしい。
「そなたの猫なのか?」
「いいえ。でも以前から、ずっと一緒にいます。懐かれてしまったみたいです」
女は小夜の頭を優しく撫でると、嬉しそうに一鳴きした。
隆雅はそんな二人の姿を見て微笑むと、皓月を取り出し、奏した。
笛の音が響く…。
隆雅は奏している間、女をちらりと見た。
「!?」
と、隆雅は急に驚いた表情になり、笛の音を止めてしまった…。
女が…涙を流していたから…。