桜舞う月の夜に

「あの…また次の機会に聴かせていただけないでしょうか?」



女は恐る恐るといったように訊ねてくる。



隆雅は少し悩んだ後、頷いた。



その様子を見て女は嬉しそうに笑った。



…何故だろうか。



初めて会ったこの女、何故なのかは分からないが、隆雅は放って置くことが出来なかった。



笛の音だけで笑ったり泣いたりする...それがただ珍しいと思ったからか。



それとも...恋心が芽生えたからなのか。



何にしても、この女の為に笛を吹きたいと隆雅は思ったのだった。



「そういえば…そなたの名前は?私は藤原隆雅」


「あ、わたくしは…朧と申します」


「朧…」



今夜の月に合う名だと思った。



優しい光を照らし出す朧月…。



春の夜の月…―――。



「またお会い出来ることを楽しみに待ってます…」







桜の花弁が舞う、朧月の夜。



二人は出逢った…―――。


< 24 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop