桜舞う月の夜に
「あの…また次の機会に聴かせていただけないでしょうか?」
女は恐る恐るといったように訊ねてくる。
隆雅は少し悩んだ後、頷いた。
その様子を見て女は嬉しそうに笑った。
…何故だろうか。
初めて会ったこの女、何故なのかは分からないが、隆雅は放って置くことが出来なかった。
笛の音だけで笑ったり泣いたりする...それがただ珍しいと思ったからか。
それとも...恋心が芽生えたからなのか。
何にしても、この女の為に笛を吹きたいと隆雅は思ったのだった。
「そういえば…そなたの名前は?私は藤原隆雅」
「あ、わたくしは…朧と申します」
「朧…」
今夜の月に合う名だと思った。
優しい光を照らし出す朧月…。
春の夜の月…―――。
「またお会い出来ることを楽しみに待ってます…」
桜の花弁が舞う、朧月の夜。
二人は出逢った…―――。