桜舞う月の夜に
その後、隆雅はいつも通りに出仕した。
宮中の中を歩いていると、広信が前方から向かってきた。
「おはようございます」
そうあいさつすると、広信はあいさつを返し、そのまま話をし始めた。
「隆雅、お前安倍殿に呼ばれているぞ?」
「安倍殿?晴夜のことですか?」
「ああ」
「じゃあ行ってきます。校書殿には遅れて行きますので」
二人は別れ、隆雅は晴夜という人物の元へ向かった。
安倍晴夜(あべのせいや)は中務省(なかつかさしょう)の陰陽師の者だ。
陰陽師の頭は安倍氏・賀茂氏が独占しているが、現在は安倍晴夜が頭となっていた。
そんな晴夜と隆雅は友人だった。
隆雅は晴夜のいるであろう陰陽寮へと着いた。
「晴夜、入るぞ」
一声掛けて部屋に入ると、他の部屋と何ら変わりない普通の部屋の奥に晴夜が座っていた。
「どうぞ、どうぞ」
にこにことしながら、隆雅に座るよう促す。